はいはいサテライト

プログラミング、ピアノ、読書

『暗黒童話』 乙一

暗黒童話 (集英社文庫)
★★★★☆

毎日とろけるような暑さです。
涼しくなる一冊が読みたくて実家に置いてあった本書を失敬。


乙一(おついち)のファースト長編小説。
歩行中、傘の先端が偶然眼にあたるという不幸な事故により記憶と「左目」を失った女子高生。
森に囲まれた煉瓦造りの屋敷に住む猟奇的な童話作家、三木俊。
二人の視点を交互に、物語は進んでいく。

目玉をくりぬいたり内臓がはみ出たりグロい描写もあるのですが、あまり怖さを感じない。
なぜなら物理的な「痛み」の描写が作品を通してほとんど無いからだと思う。
「痛み」が排除されているのは登場人物のひとりの能力のせいだが、
両手両足を断ち切られても内臓が飛び出ても被害者はケロッとしている。

スプラッタ映画が怖いのはなぜか?
言うまでもなく、「血がいっぱいでて痛そう」とか「苦しむ表情を直視できない」という
他人の痛みや苦しさを共感することで感じる恐怖なのだろう。

「痛み」不在の残酷描写は、麻酔が効いた外科手術にようなもので、被害者から苦痛を感じられないので読み手は拍子抜けしまう。
痛みを取り除いたことで非リアルで不思議な読感があり、またおどろおどろしさが薄れて読後感は爽やかですらある。

作者あとがきで、「恥ずかしい文章」、「変なものができた」と卑下していますが、構成が素晴らしくストーリーも面白い名作だと思います。

『ロック・ギタリスト伝説』 萩原 健太

★★★★☆
ロック・ギタリスト伝説 (アスキー新書)
自分で言うのもなんですが、ロックミュージックは大好きです。
大学生のときにバンドを組んでいて、iPodの再生数上位には「ニルヴァーナ」、「ピクシーズ」、「Rage againist the machine」などのロックバンドが占めている、割と典型的なロック好きだと思います。
でも正直なところ、チャック・ベリーとかジミー・ペイジなどのロック界の大御所はあまりちゃんと聴いたことがないんですよね。

本書はそんな60〜80年代に活躍したギタリスト23人について、それぞれの特徴や時代背景をわかりやすく書き綴っています。
そして各ミュージシャンについて著者の深い愛情を感じます。もう、若いころ必死に気に入ったフレーズをコピーしたのだろうなー、という熱い気持ちが文面から伝わってきます。

曲について「ギャギャギャギャ」「タンタカツカタン」みたいな擬音を使って説明しているのですが、聴いたことがない知らない曲でも不思議と臨場感をもって「聴こえて」くるのはすごいと思いました。
あと、たまにタブ譜がでてくるのですが、作者の説明を読んでいるととても弾きたくなってしまう。

クラプトンの12月の来日公演、チケットとろうかな。

『まさかジープで来るとは』 せきしろ、又吉 直樹

★★★☆☆
まさかジープで来るとは
何か、じわじわくる。
これは詩なのだろうか、あるあるネタの大喜利か。

初読で「あー、わかるわかる」とくすりと笑った文が、次読むときにはどことなく物悲しく感じたりもする。
つまらない、とスルーした詩も、数秒あとに情景を想像してしまうと笑いがこみあげてきたり。
笑いと悲哀と斬新さと懐かしさが短文に込められていて何度も読み返したくなる。

わずか10数文字の文で日常をきりとる。
とても簡単なようで難しいと思うのですが、感性というか視点が素晴らしい。
ゆっくり、少しずつ読むことをお奨めします。

マウスを買い替えた

社のマウスがチャタリングするようになったので買い替えました。

ロジクールM500

前のマウスはロジクールの無線タイプだったのですが、今回はあえて有線にしてみました。
個人的にはパソコン買えばタダで付いてくるボール式マウスの操作感が好きなので有線にしたほうがストレスなく使えそうな気がしまして。

  • 手が大き目
  • ワイヤード
  • 手ごろな値段

が優先順位高い人は気に入ると思います。
今まで自分にあうマウスを探してかなり試したのですが、会社用はこれで決まりかも?

Excelは基本キーボード操作がメインなので高速スクロールはあまり使わないけど、スクロールすると慣性でずっとまわり続けていて楽しい。
欲をいうとスクロールボタンがぐらぐらするのでチルト機能が無ければいいな、と。
あと色が1色でちょっと地味なところくらいかな、無理やりケチをつけると。

LOGICOOL レーザーマウス MicroGearスクロールホイール搭載 M500

LOGICOOL レーザーマウス MicroGearスクロールホイール搭載 M500

『恋文の技術』 森見 登美彦

★★★★☆
恋文の技術 (ポプラ文庫)
書簡形式で書かれた作品。
海月(くらげ)の研究のために京都から能登半島に出向した大学院生が主人公。
愛しの思い人に最高のラブレターを書くために、友人、先輩、妹や小学生と文通武者修行を開始する。

この作者の小説には、放漫で天上天下唯我独尊な女性がお決まりのようにでてくるような気がする。
そして主人公はヒロインに振り回されるという可哀そうな役回りになるのだ。
仕返しをしようと謀略をめぐらせても、二倍三倍にして返される。情けないけど笑ってしまう。

手紙という制約されたスタイルなのに、けっして退屈ではなく、むしろ映画のように登場人物達が動きまくる。ストーリーも面白い。

個人的に谷口さんが好きなのでスピンオフがあれば是非読みたいなぁ。

『ゴールデンスランバー』 伊坂幸太郎

★★★★★
ゴールデンスランバー (新潮文庫)
伊坂作品はほぼ全て読んでいるので、本作もワクワクしながら読み始めた。
そして、続きが気になって頁をくくるうちに一気に読み終わってしまった。

結論からいうと、おもしろい。
引き込まれるストーリー、魅力的な登場人物。いつもの伊坂節は健在。

でも、他の伊坂作品とは別の読後感があった。
伊坂作品は、ストーリーは勧善懲悪、最後に伏線を一気に回収してすっきり爽快なエンドを迎えることが多い。
本作、「ゴールデンスランバー」は読み終わってかなりモヤモヤが残る。
まるで、戦いはこれからだ、と打ち切りになった少年漫画のようだ。

また、本作品は5部構成のうち、4部がメインとなる。
1〜3部は序章パートになるが、時系列がおもしろい。
読み進めるに連れてそのような構成にした意図がわかるが、この物語が長い闘いであること、そして敵があまりに巨大であることに、主人公に対する同情と哀感で胸がいっぱいになる。

時々、はさみこまれる大学時代の話が、もうあの時代に戻れないというノスタルジーを、そして時間が経っても変わらない友情を読者に強く印象づける役割を果たしている。
本作のテーマは「絆」であると思う。

『つきのふね』 森 絵都

★★★☆☆
つきのふね (角川文庫)
途中まで読んでどんなジャンルの小説か、わからなかった。
宇宙船の設計図作りに没頭する青年がでてきたあたりから、本当に宇宙に飛んでいくんじゃないか、実はSF小説なのでは、と思っていました。
その青年のほかにも、万引き不良少女、度が過ぎておせっかいな少年、へびのようにしつこい店長。
個性的な登場人物がでてくるが、すべてが何かしらの弱さを抱えていて、他人を思う気持ちにあふれている。
最後はずるい気がするが、泣けました。

同じ作者の『永遠の出口』という小説も今度読んでみたい。