はいはいサテライト

プログラミング、ピアノ、読書

『暗黒童話』 乙一

暗黒童話 (集英社文庫)
★★★★☆

毎日とろけるような暑さです。
涼しくなる一冊が読みたくて実家に置いてあった本書を失敬。


乙一(おついち)のファースト長編小説。
歩行中、傘の先端が偶然眼にあたるという不幸な事故により記憶と「左目」を失った女子高生。
森に囲まれた煉瓦造りの屋敷に住む猟奇的な童話作家、三木俊。
二人の視点を交互に、物語は進んでいく。

目玉をくりぬいたり内臓がはみ出たりグロい描写もあるのですが、あまり怖さを感じない。
なぜなら物理的な「痛み」の描写が作品を通してほとんど無いからだと思う。
「痛み」が排除されているのは登場人物のひとりの能力のせいだが、
両手両足を断ち切られても内臓が飛び出ても被害者はケロッとしている。

スプラッタ映画が怖いのはなぜか?
言うまでもなく、「血がいっぱいでて痛そう」とか「苦しむ表情を直視できない」という
他人の痛みや苦しさを共感することで感じる恐怖なのだろう。

「痛み」不在の残酷描写は、麻酔が効いた外科手術にようなもので、被害者から苦痛を感じられないので読み手は拍子抜けしまう。
痛みを取り除いたことで非リアルで不思議な読感があり、またおどろおどろしさが薄れて読後感は爽やかですらある。

作者あとがきで、「恥ずかしい文章」、「変なものができた」と卑下していますが、構成が素晴らしくストーリーも面白い名作だと思います。